パーティーでいちばん居心地のいい場所はキッチンだといわれます。きらびやかな表舞台からは少し離れていますが、一番活気に満ちている場所。それはレストランでも同じです。目の肥えた美食家たちは、格式ばったダイニングルームよりも、キッチンの舞台裏を間近に感じられるシェフズテーブルやカウンター席といった、より特別な席を選ぶようになってきました。 ここでは、ミシュランのインスペクターが認めた世界各地のレストランの中から、料理が生まれる音や香り、躍動感までを味わえる、とっておきの席をご紹介します。
1. レストラン・ル・ムーリス・アラン・デュカス(Restaurant Le Meurice Alain Ducasse、パリ/フランス) ─ 舞台裏を眺めながら楽しむプライベートダイニング
シェフズテーブルの魅力は、プロの仕事を間近に見られることだけではありません。人目を気にせずくつろげるプライベートなダイニング空間でもあり、特別なおもてなしや親しい人たちとの集まりにもぴったりです。「レストラン・ル・ムーリス・アラン・デュカス」の「ターブル・デュ・シェフ」を予約すると、ゲストは専用のエントランスから8席だけの空間へと案内されます。エグゼクティブ・シェフのアモリー・ブウール(Amaury Bouhours)が腕をふるう厨房とゲストを隔てるのは、スモークのかかったガラス一枚だけ。席からはキッチンの様子がよく見えますが、向こうからは見えません。
2. ゴードン・ラムゼイ・オ・トリアノン(Gordon Ramsay au Trianon、ヴェルサイユ/フランス) ─ シェフとその技術に触れる特等席
シェフズテーブルには、人目を気にせず食事ができ、キッチンの舞台裏を垣間見みえるだけでなく、シェフと会話を交わし、料理のコツやアイデアを教えてもらえるという楽しみがあります。「ゴードン・ラムゼイ・オ・トリアノン」のキッチンに面した6席のひとつを押さえれば、エグゼクティブ・シェフのガブリエレ・ラヴァジオ(Gabriele Ravasio)が、食材の選び方や調理技法をあなたの目の前で詳しく教えてくれます。彼の生産者たちへの想いを知ることで、その一品がさらに味わい深く感じられるはずです。自宅での料理のヒントも得られるかもしれません。
予約:+33 (0)1 30 84 50 18または www.waldorfastoriaversailles.fr
3. ラサルテ(Lasarte、バルセロナ/スペイン) ─ 特別なコース料理で世界一周
三つ星レストランの「ラサルテ」では、他のゲストから離れたプライベートな空間で「Il Milione」コースが味わえます。その名のとおり、「百万回に一度の特別な体験」と呼ぶにふさわしい時間です。このテイスティングコースは、マルコ・ポーロの冒険にオマージュを捧げた食の旅。一皿ごとに異なる土地を思わせる料理が続き、ゲストを世界各地へと連れていってくれます。メニューの名前は、マルコ・ポーロの旅を綴った13世紀の世界旅行記『驚異の書』のイタリア語タイトルに由来しています。同じ精神のもと、シェフのパオロ・カサグランデ(Paolo Casagrande)は、多彩な味わいが織りなす食の旅へとゲストを誘います。
4. ディスフルタール(Disfrutar、バルセロナ/スペイン) ─ サプライズを楽しみたい、遊び心あふれる人に
テーブルセッティングのスタイルは店によってさまざまです。クロスを敷くか、花やキャンドルで飾るか、あえて何も置かないか。しかし、テーブルの「中」で何かが起こる、という発想はなかなかユニークです。 「ディスフルター」の「Mesa Viva」コースでは、引き出しや仕掛けがいくつも組み込まれた特注の「リビングテーブル」に着席し、それらを探検しながら食事をすることができます。引き出しを開けるたびに違う一品が現れ、次に何が出てくるか分からないワクワク感は、このうえなく遊び心に満ちたダイニング体験といえるでしょう。
予約:メール [email protected] または電話+34 93 348 68 96
5. 祇園さゝ木(Gion Sasaki, 京都/日本) ─ 驚きと喜びに満ちた現代の日本料理
観劇の前後に食事を楽しむという人は少なくありませんが、「祇園さゝ木」なら、その2つを一度に体験することができます。この三つ星の日本料理店では、カウンターがそのまま舞台となり、料理という演目が目の前で披露されます。 佐々木浩シェフと若い料理人たちが役者のようにカウンターに立ち、一皿一皿を目の前で仕上げていき、上質な舞台と同じように、コースが進むごとにいくつものサプライズが用意されています。そのたびに場の空気が盛り上がり、熱気が増していきます。人気公演さながら常に予約で満席なので、席の確保は早めがおすすめです。
6. ハンブル・チキン(Humble Chicken、ロンドン/イギリス) ─ ソーホーで一番熱いリングサイドカウンター
日本出身のシェフ、アンジェロ・サトウ(Angelo Sato)がソーホーで手がける居酒屋スタイルのこのお店は、2024年に一つ星、2025年には二つ星で掲載されました。 この若きシェフは、たぐいまれな創造性で短期間のうちに注目を集める存在となりました。手作業でローストしたアンジュー産ピジョンから食パンまで、日本の定番をモダンに再構築した料理で知られています。ゲストは「ハンブル・チキン」のオープンキッチンをぐるりと囲むリングサイドに腰掛けます。 夜の2部制で各回13席のみ。ロンドンでも指折りの争奪戦となる人気席なので、早めの予約が必須です。
7. シナエ(SINAE、大阪/日本) ─ 臨場感溢れる一席
オープンキッチンやカウンター席の魅力は広く知られていますが、活気溢れる厨房の中央に入り込む体験はそうそうできるものではありません。大阪の「シナエ」では、レストランの厨房に設けられた特別なテーブルを予約することで、普段は固く閉ざされ目に触れることのない世界を目の当たりにすることができます。 シンプルで季節感のある地元食材にこだわり、直火で最大限に香りと旨み、そしてドラマを引き出す大東シェフの仕事ぶりを、目の前で堪能できる特等席です。
予約: www.sinae.jp
8. カーザ・ペルベッリーニ・ドーディチ・アポストリ(Casa Perbellini 12 Apostoli、ヴェローナ/イタリア) ─ 二人だけの世界に浸れるシェフズテーブル
ロミオとジュリエットの街・ヴェローナにふさわしく、三つ星レストランの「カーザ・ペルベッリーニ・ドーディチ・アポストリ」のメニューには、シェフのジャンカルロ・ペルベッリーニ(Giancarlo Perbellini)が妻に捧げるロマンチックな「Io e Silvia」や、前オーナーのジョルジョ・ジョーコに敬意を表したクラシックな「Io e Giorgio」といったコースが並びます。2人きりのロマンチックなディナーを計画しているなら、シェフズテーブルがおすすめです。「Io e Silvia」はコースの締めくくりに、ペルベッリーニ自らが選んだサプライズの4品を楽しめる、とっておきの体験が待っています。
予約:シェフズテーブル専用サイト cheftable.plateform.app
9. ルーミ(Loumi、ベルリン/ドイツ) ─ クリエイティブな一皿を最前列で味わう
独学で腕を磨いてきたカール=ルイ・ケムラー(Karl-Louis Kömmler)シェフは、典型的な料理人のキャリアを歩んでいません。そのぶん、ジャンルの枠にとらわれない独自のファインダイニングを追求しています。一つ星「ルーミ」が提供する8品のテイスティングメニューでは、カンポットペッパーのソースでいただくウズラや、ブリオッシュ・オ・クロワッサンといった料理が登場します。素材の持ち味を大切にする日本的な感性と、クラシックなフランス料理の技法が、ひと皿ごとに反映されています。トレンドの発信地、クロイツベルク地区にあるシンプルで洗練された店を訪れたら、ぜひカウンター席をリクエストしてみてください。
10. モノ(Mono、香港特別行政区) ─ ラテンの香りに包まれるカウンター体験
シェフのリカルド・シャネトン(Ricardo Chaneton)が手がける「モノ」は、わずか22席の小さなラテンアメリカ料理店。そのうち10席が長いステンレス製のキッチンカウンターです。スツールに腰掛ければ、シャネトンとスタッフが目の前で料理を仕上げていく様子をじっくり眺められます。グアサカカソースとビスクを添えたスイートブレッド(仔牛の胸腺)入りのクリスピーなアレパや、デザートの金柑コンフィとサフランのソルベなど、さまざまな一皿が次々と登場します。 ひとりで訪れても、とびきりのエンターテインメントになるはずです。
予約:www.mono.hk
11. 元一(Motoichi、台北/台湾地域) ─ おまかせスタイルで楽しむ天ぷらコース
台北でも屈指の天ぷら店「元一」は、住宅ビルの一角にひっそりと店を構えています。ここならではの体験は、到着した瞬間から始まります。小さな竹の塀に囲まれた庭と石畳の小道の先に、控えめなたたずまいの入口が姿を現します。中に入れば、軽やかで香ばしい日本の天ぷらを、おまかせスタイルでじっくり味わえます。店内には8席のカウンターを備えたダイニングルームが2つあり、その向こう側で、熟練の料理人たちが天ぷらを一つひとつ、静かに丁寧に揚げています。
予約: +886 2 2778 3380
12. ルーマー・バイ・ラーツ・イェネー(Rumour by Rácz Jenő、ブダペスト/ハンガリー) ─ 世界中のエッセンスが詰まったカウンターダイニング
ハンガリーの首都ブダペストで最も予約が取りにくいカウンターダイニングのひとつが「ルーマー・バイ・ラーツ・イェネー」です。 ヨーロッパやアジア各地で経験を積んだのち、ラーツ・イェネー(Rácz Jenő)は、世界中で得た料理のインスピレーションを携えて母国へ戻りました。 山椒やガラムマサラ、キャビアといった多彩な食材が、フランス料理の技法と日本料理の繊細な仕事ぶりによってまとめ上げられていきます。大きなオープンキッチンをぐるりと囲む21席のカウンターから、シェフたちが丁寧に料理を仕上げていく様子を眺められます。
13. ソレカラ(Sorekara、オーランド/アメリカ) ─ コースとともに移動するダイニング体験
ディナーといえば、ひとつの席に座ったまま楽しむのが普通ですが、フロリダ州の二つ星「ソレカラ」は少し違います。このレストランでは、コースが進むごとに次の部屋へと移動します。どの部屋も、アースカラーや自然素材を生かしたしつらえで、料理と呼応する空間づくりが印象的です。大きなガラス窓があるダイニングからは、活気に満ちた料理人たちの熱気が伝わってきます。 席に腰掛け、ガラス越しに繰り広げられる料理の舞台をゆっくり眺めてみてください。
14. メジュ(Meju、ニューヨーク/アメリカ) ─ 10年熟成の韓国発酵食を味わう
ロングアイランドシティにある韓国惣菜店の奥に、ひっそりと佇む8席だけのシェフズカウンター、「メジュ」があります。一見すると入口だと分からない扉をくぐり細い廊下を抜けると、その先に広々としたのダイニングが現れます。オープンキッチンの上に広がる高い天井と大きなオブジェのような照明が印象的な空間です。ゲストはL字型のカウンターに腰掛け、オープンキッチンの臨場感を間近に感じながら食事を楽しみます。フーニ・キム(Hooni Kim)シェフが、韓国の発酵食品を主役にコースを組み立てていく様子を、目の前でじっくり眺めることができます。その中には、最長10年もの間熟成させたものも含まれています
ロンドンで今もっとも注目を集める場所のひとつ、ハンブル・チキンのオープンキッチン。© Humble Chicken