Travel 4 分 2026年3月23日

シェフ、カイル・コノートンの京都

カリフォルニアにある三つ星「シングルスレッド」を率いるカイル・コノートン。京都で影響を受けた料理人やレストラン、日々歩く祇園の街など、彼の視点でたどる。

3ミシュランキーホテル「シングルスレッドイン」は、ミシュラン三つ星レストランを擁する食と宿泊が一体となった特別な場所。農園を核にした独自のスタイルで、世界中の人々を惹きつけてきた。

そのオーナーシェフ、カイル・コノートンは、日本の精神性とカリフォルニアのテロワールを大切に表現してきた料理人だ。2026年3月、ラグジュアリーホテル「カペラ京都」の開業とともに、館内に海外初の支店「想乃間(ソノマ)byシングルスレッド」を開く。

開業準備のため数カ月にわたり京都に滞在して改めて向き合ったのは、この街の食文化だった。京都で影響を受けた料理人や店、日々歩く街の風景。今、彼が感じる京都を、新店に込めた哲学とともに語ってもらった。

日本茶を愛好するコノートン氏。カリフォルニアの「シングルスレッド」では、碾きたての抹茶を楽しめる専用の機械も導入するほど。(© SoNoMa by SingleThread)
日本茶を愛好するコノートン氏。カリフォルニアの「シングルスレッド」では、碾きたての抹茶を楽しめる専用の機械も導入するほど。(© SoNoMa by SingleThread)

料理人を志したきっかけは、日本だったそうですね。

9歳で初めて父と日本を訪れた際、すし店で職人が魚を捌く姿に憧れて、料理人になりたいと思いました。私にとって、日本は原点といえる場所です。私の料理は一見、伝統的な日本料理とは趣が異なるかもしれません。しかし、そのルーツは、日本料理の影響を強く受けています。中でも古都・京都は、日本の美食の歴史を生み出してきた場所。カリフォルニア以外に店を構えるのは初めての経験です。

京都で店を開くにあたって、どのようなことを大切にしましたか。

京都という異国の地で店を構えるあたって、その土地の文化を理解せず、独りよがりな経営を避けたいと考えていました。自分の料理は、日本料理と海外をつなぐ架け橋になれるのではないかと思い、若い頃お世話になった、菊乃井の村田吉弘さんに相談に行きました。「ぜひやるべき」と背中を押していただき、心が決まりました。


関連記事:メンターシェフアワード受賞 ミシュラン三つ星「菊乃井 本店」村田吉弘氏

「菊乃井 本店」には、日本料理を学ぶために数えきれないほど訪れている。2013年の訪問時の写真。(© Kyle Connaughton)
「菊乃井 本店」には、日本料理を学ぶために数えきれないほど訪れている。2013年の訪問時の写真。(© Kyle Connaughton)

日本料理は奥深く、もっと多くの方にその魅力へ触れてていただきたいと考えています。新しい京都の店を率いるヘッドシェフは、カリフォルニアで生まれて、南青山 の「てのしま」で2年間の修業をしたあと、私の店で働いた 富永敬太さんです。 「日本料理の繊細な味わいには、素材への敬意がある」というような、海外の方には伝わりにくい価値を、少し違うアプローチで表現していきたいと思っています。

散歩やハイキングなどで自然と触れ合う時間が最もインスピレーションを得られる時間だという。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)
散歩やハイキングなどで自然と触れ合う時間が最もインスピレーションを得られる時間だという。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)

そうした思いを持って京都に滞在するなかで、この街の日々の風景から受け取っているものも多いのではないでしょうか。京都を感じるお気に入りのスポットはありますか?

「想乃間」のあるカペラ京都は改築された歌舞練場のすぐ隣にあり、両施設とも同じスタイルでデザインされています。このあたりを散歩するのが日課で、時には稽古に通う舞妓さんや芸妓さんを見かけることもあります。特に気に入っているのが、静かで緑豊かな恵美須神社。日本的な情緒があって、木々を見ながら季節感を感じられるのが良いですね。カリフォルニアの「シングルスレッド・ファーム」でも、「今、この時」の季節を感じてもらうのがテーマです。妻のカティナが営む自家農園の野菜を最初に提供します。

カリフォルニアでは万願寺唐辛子などの京野菜を栽培。一方で、日本では珍しい西洋野菜を京都の農家に育ててもらい、文化の架け橋となる店を目指している。(© SoNoMa by SingleThread)
カリフォルニアでは万願寺唐辛子などの京野菜を栽培。一方で、日本では珍しい西洋野菜を京都の農家に育ててもらい、文化の架け橋となる店を目指している。(© SoNoMa by SingleThread)

その背景には、日本の繊細な季節感の表現に感銘を受けたということもあるのでしょうか。

はい。日本の文化をカリフォルニアで表現する「シングルスレッド・ファーム」とさらにその哲学を日本の京都で表現する「想乃間」は、場所は違えど、その骨組みとも言える精神性は同じです。それはどちらも、自然との繋がりが感じられる場所だということ。
この「想乃間」でも、「京都の今」が感じられる「今、この場所」の料理を作ります。その際に、昨日は梅が咲き始めたな、などと、日々移り変わる季節を感じることができるのは、料理の着想に大きく役に立っています。

菊乃井本店のすぐ隣の「菊乃井 無碍山房」 では、「無碍山房濃い抹茶パフェ」(写真)や「時雨弁当」など、軽食や甘味が楽しめる。(© Salon de Muge)
菊乃井本店のすぐ隣の「菊乃井 無碍山房」 では、「無碍山房濃い抹茶パフェ」(写真)や「時雨弁当」など、軽食や甘味が楽しめる。(© Salon de Muge)

さらに5分ほど歩くと建仁寺もあり、若い頃に研修をさせていただいた「菊乃井 本店 」までは徒歩15分ほど。お昼に一人で日本料理を食べたい時に重宝しているのが、菊乃井が経営する「菊乃井 無碍山房」 。カフェのように和菓子とお茶も味わえて、隠れ家のような雰囲気も気に入っています。

美山荘 」も昔からお世話になっている、お気に入りの場所。修業時代に、当時あった北海道の支店で働いていました。自然の恵をいただく摘草料理は、私のスタイルを形作る大切な要素の一つです。日本の伝統料理ということなら、「瓢亭」を忘れてはいけないでしょう。15代目の髙橋義弘さんとは親しくさせていただいています。伝統を大切にしながらも、革新をやめないのが素晴らしいですね。もう10回以上訪れています。
また、おもてなしという面で感銘を受けるのが、ミシュランサービスアワードにも輝いた、友人の阪口順子さんが女将を務める「山荘 京大和」です。



日本の「土鍋」については、本 も執筆。「想乃間」でも、オリジナルデザインの土鍋を調理に使う予定だ。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)
日本の「土鍋」については、本 も執筆。「想乃間」でも、オリジナルデザインの土鍋を調理に使う予定だ。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)

歴史的な店に加え、若いシェフが営む「いと」のような店も印象的です。地元のオーガニックな食材にこだわり、伝統に根ざす革新的な懐石料理を提供しています。温かい雰囲気のカウンター席で、若いシェフたちの仕事ぶりを見るのがいつも楽しみです。

「いと」の野口翔平氏とは、コラボレーションディナーも開催。食事と料理を通じて、文化の相互理解の場となった。( © Kyle Connaughton)
「いと」の野口翔平氏とは、コラボレーションディナーも開催。食事と料理を通じて、文化の相互理解の場となった。( © Kyle Connaughton)

そのほかにも、ランチによく訪問するのは「鰻と、COFFEE 」。日本では珍しい組み合わせかもしれません。注文が入ってから捌き、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げるうなぎと、自家焙煎コーヒーの香りがとてもよく合います。デザートのバスクチーズケーキもおすすめです。

川魚店「のと正」が手がける「鰻と、COFFEE」。60年間継ぎ足されたタレ、備長炭で焼き上げた熱々のうな重が楽しめる。店から近いため、ランチで利用することも多いという。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)
川魚店「のと正」が手がける「鰻と、COFFEE」。60年間継ぎ足されたタレ、備長炭で焼き上げた熱々のうな重が楽しめる。店から近いため、ランチで利用することも多いという。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)
イギリス「ファット・ダック 」のラボの責任者として料理の科学を研究してきたコノートンシェフにとって、日本酒の発酵は特に興味深いという。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)
イギリス「ファット・ダック 」のラボの責任者として料理の科学を研究してきたコノートンシェフにとって、日本酒の発酵は特に興味深いという。(© Kyoko Nakayama/MICHELIN Guide)

日本酒のペアリングはカリフォルニアでも行っていますが、京都の日本酒「禅利」は京都で3箇所しか扱っていないプレミアムな日本酒、実際に蔵にお邪魔し、若い醸造家の熱意を感じてきました。

※酒蔵見学、および一般公開はしておりません。


日本料理はまた、健康な料理としても世界で知られていますね。

もちろん、料理を作る上で、脂質や炭水化物の量もきちんと考えていますが、自然とのつながりを感じる精神的な健康も非常に重要なことだと思っています。「想乃間」は、窓から日本庭園を望むことができるのですが、「室内での森林浴」をイメージして、カティーナが作った植物のアートピースを飾っています。

森林浴の健康効果はよく知られることですが、最近、清水山にトレッキングに行きました。山頂からの景色が素晴らしく、そのまま通常の参拝口とは全く違う山側の入り口から清水寺に行くことができたのは、とても印象深い出来事でした。全てのものが全く違って見えたのです。


それは、コノートンさんがやっている、日本料理に違う文化からの視点で捉える、ということと似ているかもしれませんね。視点を変えることで、新しい発見があり、文化の多様性と豊かさを生み出してゆく。

はい。今後はカリフォルニアと京都のスタッフが研修で互いの店を頻繁に行き来する計画。日本料理と西洋料理、お互いの理解を深めることで、双方の表現も昇華してゆきますし、それが新しい文化の形成につながることを願っています。


まるで映し鏡のようにお互いを発見し高め合う関係性を楽しみにしています。

夜の先斗町にて、信頼するパートナー、カティナと。三つ星「シングルスレッド」と「想乃間」をつなぐ新たな対話が、京都という街を通して始まっている。(© Kyle Connaughton)
夜の先斗町にて、信頼するパートナー、カティナと。三つ星「シングルスレッド」と「想乃間」をつなぐ新たな対話が、京都という街を通して始まっている。(© Kyle Connaughton)

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