国際都市・東京には、ファッションブランドが経営するファインダイニングがある。「アルマーニ リストランテ」と「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」。いずれも東京から日本の精神性を反映したイタリア料理を発信し、新風を巻き起こしている。そんなイタリアンエレガンスを体現する2店をご紹介する。
アルマーニ / リストランテ
「モード界の帝王」と称された故ジョルジオ・アルマーニといえば、従来のジャケットの肩パッドをなくし、軽やかに仕上げたアンコンストラクテッド・ジャケットの発案者で、そのミニマルでエレガントなスタイルで知られる。
その哲学を食の世界で表現するのが、アルマーニ / リストランテだ。東京でエグゼクティブシェフを務めるのは、日本人の父とスペイン人の母のもと、スペインで育ったブルノ・昼間シェフ。マヨルカ島生まれ、バルセロナ育ち。イタリア同様に地中海の恵を存分に楽しんできた昼間シェフが一目置くのが、日本の食材、特に魚介類 。2010年、18歳で来日。函館のフレンチレストランで5年間働いた。今、店で使う魚の多くはその頃出会った生産者が「ブルノのために」と選び抜いたものだ。その後、東京の スペイン料理「スリオラ」のスーシェフを経て、2021年、アルマーニ リストランテのシェフに。24年12月からエグゼクティブ シェフとして店を率いる。大切にするのは、人とのコミュニケーション。日本語が堪能な昼間シェフは、就任後から積極的に日本の生産者を訪問し、小さな違いを生み出すための職人技に深く感銘を受けてきた。
食材の本来の姿を際立たせ、ミニマルな美学を表現する、ブルノ・昼間エグゼクティブシェフ。(© ARMANI / RISTORANTE)
料理には多くの要素を盛り込まず、シンプルな見た目だが、温度帯やテクスチャの引き出し方にこだわり、その食材らしさを通していかに、驚きや発見をもたらすかを大切にする。生産者に求めるのは、細かいサイズや種類ではなく「いかに 上質であるか」。
例えばメインディッシュに使われる天然の魚は、個体ごとに脂ののりや水分量が異なり、それに合わせてエイジングし、適切なタイミングで炭火焼きにする。皮の香ばしさと皮下のとろけるような脂、ジューシーな身。刻一刻と変わる状態を見極めて出すからこそ「テーブルに届いたら、なるべく早く味わっていただけると嬉しいです」と昼間シェフ。
「全国の生産者の情熱をもっと直接感じたい」そんな思いから、アルマーニ リストランテではこの春から新しいプロジェクトがスタートする。それが、「47 Roots」。時代に左右されない普遍的な美しさを表現してきたアルマーニ氏と、普遍的なおいしさの源でもある食材に焦点を当てる昼間氏のスタイルを重ね、日本というテロワールを紐解いていく。3月にスタートする春メニューの愛媛県を皮切りに、年に4回、47都道府県のうちの一ヶ所の食材や食文化にフォーカスを当て、伝統的なイタリア料理を昇華させる試みだ。「全都道府県を回るには12年かかるが、人生を賭けるのにふさわしいテーマ」と語る昼間シェフ。その先に何が見えてくるのか、「新しい普遍」を見つける旅は、今始まったばかりだ。
グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ
過去のよいものを現代に反映させる温故知新のスタイルを生み出しているグッチ。それを料理で表現しているのが、「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」のエグゼクティブシェフ、南イタリア・フォッジャ出身のラファエラ・デ・ヴィータシェフだ。デ・ヴィータシェフは日本のミニマリズムや美意識、アートに心酔し、2017年に来日。日本語を学びながら料理人として働き、今では流暢な日本語で生産者やスタッフとやりとりをする。2022年からグッチ・オステリアのシニアスーシェフ、25年春にエグゼクティブシェフに就任した。
彼女は自身の料理を、過去の記憶に基づく「ノスタルジックでエモーショナルなスタイル」と表現する。祖母が作ってくれた料理や、イタリア各地を旅した際の記憶をアーティスティックに昇華させ、独自の世界観を生み出す。自らの心を動かした味の記憶を料理に映し、料理を通して食べた人の心の琴線に触れられればと考えている。
食材から感じ取ったことをデザイン性豊かなプレゼンテーションで表現する、ラファエラ・デ・ヴィータエグゼクティブシェフ。(© Gucci Osteria da Massimo Bottura Tokyo)
監修するマッシモ・ボットゥーラシェフ同様に、アートへの造詣が深いデ・ヴィータシェフ。口数の少ない彼女が好んで身につける色は黒。それに反して、彼女の心の中のエネルギーが溢れ出るかのように、その料理はとてもカラフルで、シグネチャー料理の「カルテッラータ 」(南イタリアの伝統菓子の形状に着想を得た、円形のオープンラビオリ)のように、ユニークなプレゼンテーションが特徴だ。
彼女が大切にするのは、食材に触れた時の感覚。正直な人が作った食材は正直な味、というように、作り手の人柄が反映されるように感じるのだという。実際に自身も新潟の米農家を訪問し、田植え体験をしたことがあるが、感銘を受けたのは日本の食材にかけられる手数の多さ。それを知ることで、きちんとその食材に向き合い、感謝して頂かなくてはという思いを新たにしたという。日本の生産者の想いを自らの内側にあるイタリアの情熱と重ね合わせ、日本とイタリアの架け橋になる。そんな思いが込められた料理が、「日本へのオマージュ」だ。
薄いチュイルの筒に帆立の入ったカンノーロ(南イタリアの伝統菓子で、本来は揚げた生地に甘いクリームが入る)に、良質の魚介類で知られる南イタリア出身の自身をイメージし、日の丸から着想を得たパプリカとイカの赤いソースを真っ白な皿に流した。「いつか、一目見ただけで私が作ったとわかってもらえるようなスタイルを築き上げることが夢」。視覚に訴えかけるユニークな見た目と、料理の内側に込められた物語と熱量が、人を動かすと信じている。
写真:「日本へのオマージュ」は、日本とイタリアそれぞれをイメージした皿を同時に提供し、日本を愛するイタリア人である自身の心を投影させた。(© Kyoko Nakayama/The MICHELIN Guide)
食材の色味をそのまま生かし、研ぎ澄ました美意識を表現する昼間シェフと、鮮やかでポップな色合いでデザイン性に富んだデ・ヴィータシェフ。いずれも、日本への愛とその食材への敬意を背景に、それぞれのエレガンスを表現している。日本の風土に根付くイタリア料理は、これからますます花開き、日本の美食シーンに豊かな実りをもたらしてくれることだろう。
Header image: 脂の乗った函館産ブリのスモークに、りんごとディルのクリアなソースを合わせたアルマーニ リストランテの「燻製 鰤のカルパッチョ」( 写真左上:© ARMANI / RISTORANTE)、ブルスケッタの代わりに美しい透かし模様のチップを作り、鮑にトマトのコンソメを流す。グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ「ブルスケッタの再構築〜華麗なる変身〜」(写真右下:© Gucci Osteria da Massimo Bottura Tokyo)